« <<批評>> TIF'08 『スリー・スペルズ』 | トップページ | ニナ・バイエ &マリー・ルンド個展 »

2008/04/30

<<レビュー>> 古川日出男×(虹釜太郎+鈴木康文)ギグ@渋谷 O-nest

生くる言の波を増幅する音の波。
古川日出男×(虹釜太郎+鈴木康文)を体験する。


2008年1月18日
KIASMA Vol.19 @渋谷O-nest
古川日出男×(虹釜太郎+鈴木康文)


評=吉田アミ

Furukawa_3
photo:Wataru Umeda

言の葉ではなく、言の波のよう。
 
 
はじめて古川日出男の朗読パフォーマンスを体験した瞬時。そう思った。朗読? はたしてそれだけと言い切れるのか。口舌パフォーマンス? 違う。流転する言の波。だから、ロックンロールだ。それでいいと思っていたんだ。
 
 2008年1月18日。渋谷O-nest。この日の古川日出男の朗読パフォーマンスは一夜限りのスペシャルとして、音楽家の虹釜太郎、鈴木康文とのコラボレーションライブとなった。二人は『ハル、ハル、ハル』(河出書房新社)刊行のときに、記念して作られたリミックスアルバムを担当し、その楽曲の中で、古川日出男の朗読は二人の手によって響き、拡声され、裁断され、変形され、前後左右を縦横無尽に移動し、再構成され、音楽になり、解け合っていった。剥奪された意味の中で、朗読はヴォーカルだった。読者に読ませるだけでは飽き足らない古川日出男が導き出した、小説とは違う言葉のかたち。それが今回のパフォーマンスの礎になっているのは明らかだった。コラボレーションの名は古川日出男×(虹釜太郎+鈴木康文)。

 第一声。間髪入れることなく、音。
観客のざわめきは一瞬にして潜める。

圧倒的だった。
その存在感。

 古川日出男の声に闘うように音が散乱する時、ほとんど奇跡のようにそこは古川日出男の物語の内であった。古川日出男×(虹釜太郎+鈴木康文)の独壇場。私たちは固唾を呑んでステージを注視せずには居られない。ただ、耳を、眼を拓き、囂々と流れ込む音に声に叫びに意味に翻弄されていれば良かった。それが、とても心地好かったのだ。抗うな。と、音が飛び込んでくる。ざらついた、まとわりつくようなノイズ、異国のループ、寸断される電子音…それらが次第に融合するでもなく、霧散するでもなく、めいめいに、ほうぼうに、実に自由に。自在に。空間を占拠した。(・・・)

 しかし、それだけではない。古川日出男の言葉が私たちの内に流れ込んでくるのだ。感じているといってもいいかもしれない。ちょっとあり得ない体験であった。たんなる音楽だけのライブでもない。小説家が片手間でお茶を濁すようにやる白々しいファンサービスの一環でもない。古川日出男はそれを許さない。真剣さが、切迫さが、場内にある種の恍惚とした緊張感をもたらし、二人の奏でる音がさらにその本質を増幅した。境界線はますます曖昧になっていく。此処が古川の物語の内なのか。私たちはその登場人物に憑依する幽のような存在なのだろうか。理由も、意味も、答えもわからずに。ただ、立ちすくむことだけが有効。でも、それを選んでいるのは他でもない、自分自身である。なんてエキセントリック!そして、エキサイティング!っていうか、ロックンロール!なんじゃね?  

 ふつう小説は本というフォーマットで表現される。本は文字のインクの黒と紙の白とで表現される。そこには色がない。時も、音もない。書かれたことのみが真実っぽい真実である。それは本の内に隠れていれば、もっともらしい神様みたいな顔をしていられる、作者の戯言のように映るかも知れない。古川日出男はそれを許さない。彼は朗読パフォーマンスによって、言葉に色を、音を、時を与える。私たちはそこで単一の真実と信じていた世界が複雑な構成をもって誕生するのを目撃するのだ。小説を読むだけでは、知り得なかった事を。だから、この音を、この二人を、コラボレーション相手として選んだのはとても正しいと思った。正解や編集、世の中のありとあらゆる合理から逃げ出す音響派の先鋭・虹釜太郎と鈴木康文の音波は古川日出男の言波に似合っている。唯一無二の夜を体験できたこと。幸せでした。

古川日出男×(虹釜太郎+鈴木康文)。

また再会したい。何度でも。

「2008年1月18日
KIASMA Vol.19 @渋谷O-nest
『マザー、ロックンロール、ファーザー』
古川日出男×(虹釜太郎+鈴木康文)」
http://kiasma.info/

 さて、このライブの映像は集英社の古川日出男公式サイトより視聴することができる。次に書くのがそこへ行くためのURLである。

http://www.shueisha.co.jp/furukawa/rensai/index.html?contents=reading

 あくまでも、これは「視聴」であって、「体験」ではない。では・ないが、体験に足りない部分はあなたの想像力で補うことができるだろう。


------

■ 筆者プロフィール

吉田アミ(前衛/文筆/音楽家)
超絶高音ハウリング・ヴォイス奏法の第一人者として国内外で高い評価を受ける。2003年アルスエレクトロニカ、デジタル・ミュージック部門でゴールデンニカを受賞。また、文筆家として雑誌「ユリイカ」「まんたんブロード」などカルチャー誌を中心にレビューや評論を発表している。著書に自身の体験をつづったノンフィクション作品『サマースプリング』(太田出版)がある。最新作は現在発売中の講談社BOX MAGAZINE『パンドラVol.1 SIDE-B』(講談社)にヰタ・セクスアリス・ホラーお伽話「雪ちゃんの言うことは、絶対。」。濃縮雑誌「エクス・ポ」に吉田アミ&雨宮まみ「お悩み相談室」が好評連載中 !
・日々ノ日キ(ブログ)


■ 告知

Ftarri Festival
4月19日・20日 @スーパーデラックス
音響派以降の日本の即興音楽シーンが一望できます。入場者の方には、フェスティヴァル出演者の演奏を Ftarri/Improvised Music from JapanリリースのCDから選び、十数曲収録しています。完売して久しい10枚組ボックス・セットに収録されていたレア物や、未発表録音も数曲含まるとのこと。即興音楽に興味はあるけど、何を聞けばいいのかわからない初めての方にもおすすめです!
http://www.ftarri.com/festival/tokyo/index.html
http://www.ftarri.com/info/index.html

|

« <<批評>> TIF'08 『スリー・スペルズ』 | トップページ | ニナ・バイエ &マリー・ルンド個展 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/174560/40800545

この記事へのトラックバック一覧です: <<レビュー>> 古川日出男×(虹釜太郎+鈴木康文)ギグ@渋谷 O-nest:

« <<批評>> TIF'08 『スリー・スペルズ』 | トップページ | ニナ・バイエ &マリー・ルンド個展 »