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2007/05/03

石井達朗さんによるクリティーク! 

指輪ホテル『CANDIES』
評=石井達朗

この一見、蠱惑的で、エロティックで、イノセントで、可愛さを標榜しているような
―あるいは、以上の形容詞がすべてウソであるかもしれない―
不可解な女の子たちの集団。

数年前、へたすぎて見ていられないと思った時もあるが、そんな時にも、
「うまい/へた」などという、陳腐な基準で彼女らを見ている自分のあざとさを
自問自答したくなるような何かが、彼女らの作品にあった。
であるから、「へた」でないときには、今の日本の舞踊とか演劇が同じような方向を向いているのではないかと思わせるほど、彼女らの活動がユニークに映る。

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 一年の季節の移り変わりの中で、私がいちばん好きな瞬間が2、3回ある。
それはだいたい2月の後半にやってくる。まだまだ寒さが続くなあと身を縮めて夜道を
歩いている時に、予期せぬなま暖かい風が頬を撫でて通り過ぎる瞬間のことだ。
凍てついた地表の下から若芽が出てくるように、生命が戻ってくるような心地よさがある。
枯野が回復するような予兆。満開の桜の頃よりも, こんな夜のほうが好きだ。
今年の2月後半、ヤン・ファーブルの『わたしは血』や白井剛の『しはに』を見た帰り道には
残念ながら、暖かい微風の感触がなかった。この冬が全体的に温暖であったからだろう。

 『しはに』は、朝日新聞に短評を書いたので、ここでは繰り返さない。
『わたしは血』では、おぞましいほどに舞台で血の饗宴が繰り広げられ、
これには辟易としたという声も少なからず終演直後に聞いた。
私はファーブルの透徹した詩的精神と異様なほどにアーティスティックな舞台に圧倒されっぱなしだった。
ベルギーが生んだ、この偏執狂的な異能の人は、分析力のある批判精神とそれを
ヴィジュアルに開示する途方もない力を持っている。
1986年の初来日公演『劇的狂気の力』では、裸電球の下での4時間半ぶっとおしの
舞台をやったが、ファーブルの「狂気の力」は現在まで衰えるどころか増長している。

 2007年をとおして、恐らくこの3月ほどダンス公演が多い月はなかったということになるのではないか。しかも充実した舞台が多かった。山崎広太、矢内原美邦、黒田育世が力作を発表。とくに矢内原の『no direction』では、高橋啓祐の映像もスカンクのサウンドも今までで最も
スケール感ある仕事をしていて、矢内原の振付けもニブロールの歴史にエポックを印す構成力を見せた。矢内原、黒田の作品についてはすでに新聞に書いているので割愛。
その他、アントニオ・ガデス舞踊団がガデス亡き後、気迫をもってガデスの遺産を引き継いで
いたのが印象に残る。アドリアン・ガリアがガデスのパートを踊っていたが、彼がガデスに似ていれば似ているほど、踊りが素晴らしければ素晴らしいほど、ダンサーであり振付家である
不世出のガデスという人を思い出してしまい、複雑な気持ちになった。
同じく3月の、新国立劇場バレエ『オルフェオとエウリディーチェ』は、現代風に奇を衒うこともなく、かといって古典を装うのでもなく、新作バレエとして稀に見る内容だった。
これは『ダンスマガジン』に評を書いた。

さて、以上の舞台ほど大掛かりではなく、広報もそれ程行き渡っていたわけではなく、
こじんまりとした3月末の公演で、ひと言付け加えておかなければならないものがある。
羊屋白玉率いる指輪ホテルである。
この一見、蠱惑的で、エロティックで、イノセントで、可愛さを標榜しているような―あるいは、 以上の形容詞がすべてウソであるかもしれない―不可解な女の子たちの集団。
数年前、へたすぎて見ていられないと思った時もあるが、そんな時にも、「うまい/へた」などという、陳腐な基準で彼女らを見ている自分のあざとさを自問自答したくなるような何かが、
彼女らの作品にあった。であるから、「へた」でないときには、今の日本の舞踊とか演劇が同じような方向を向いているのではないかと思わせるほど、彼女らの活動がユニークに映る。
とく印象に残る過去の作品として、池袋の屋上テニスコートで公演された『情熱』と、東京都庭園美術館大ホールで行われたパフォーマンス『nowhere Girl Episode2』がある。

 今回は96年に初演された『Please Send Junk Food』 と『CANDIES girlish hardcore』と
いう2作品を、森下スタジオで見た。
前者は胸につけた2つのベーグルを取って、乳房を露わに客の目の前で踊るレビュー、
後者はヨーロッパ・北米で公演された最新作である。『CANDIES』にはすでに活動歴10年以上になるこのグループの集大成ともいえるものが詰っている。
刺青、排泄物でホットケーキを焼いて食べる演技、動物や昆虫のイメージ、女たちが無表情にタバコに火をつけ、服を脱ぎながら単調な動きを永遠に繰りかえすかのように続けるラスト。
こんなパフォーマンスしているグループは、世界広しといえども、あまり例がないだろう。
ジェンダー論なくしては語れない、しかしお仕着せのジェンダー論だけでは語れない地平に
彼女らはやってきている。身体・言葉・物、そしてビジュアルのイメージが、トータルに表象するところのパフォーマンスそのものなのであり、それを後から言葉により追体験しようとすれば
するほど、言葉が色褪せてくるのだ。その意味で「パフォーマンス」という時間と空間の
純粋性と内実を保ち続けている稀な集団なのである。
今までずっと彼女らがそうしてきたように、これからも既成の劇場など無視して、オルタナティブな空間で新たなチャレンジを続けて欲しい。

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